【二章】希望

【二章】希望

(その日、世界に激震が走る。


世界有数の軍事国家、魔法帝国等、武力・魔法により発展し他国に侵攻し支配する”力”持つ者の集い。
その数凡そ32ヵ国。其れに加え現在進行形で勃発している紛争地域・戦争地区、凡そ10区。 


夫々の上空に突如巨大な大岩が出現。
突然の出来事に各国は成す術も無く大岩は流星が如く各国に降り注ぎ甚大な被害を齎した。
死者数名・重軽傷者多数の人的被害に加え、各国の軍事・魔法施設及びその育成機関は崩壊。

各紛争地域・戦争地区は大岩の直撃で各軍は壊滅、双方撤退を余儀なくされる形での終戦となった。
各国同時に発生した大事件に世界は混乱の渦に巻き込まれ、被害国は復興と原因解明に急ぎ、幸い何の影響も無かった諸国は次は自国に矛先が向くのではないかと疑心暗鬼に陥る。
世界情勢が崩壊し、各国の友好関係にも亀裂が生じ得体の知れない”何か”に世界が恐れ慄く。

そんな緊張状態が一週間程続いた次の日。
全世界全生命の脳内にある人物の声が流れ始めた。)

 

 

俺の名は、輪廻の復讐者 ふぉる
先日、各国に大岩を落とした者だ。


今、全世界の生命全ての脳内に語り掛けている。
目を閉じれば俺の姿を見る事が出来る。

 

(罠かもしれない疑い深い彼の言葉に従った者には、その言葉通り脳裏に語り手の映像が映る。
短髪黒髪、白インナーに黒ジャケットを着用した青年。右手には背丈程の刀、全身の肌は鱗の様な模様が浮き上がり、赤の双眸が真っ直ぐと此方を見つめている。

彼の立つ地は草木一つ無い荒野、背後には天まで昇る大木の根本が映る。)

 

何故あのような事をしたのか、何が目的なのか。
今此処で全てを語り、宣告しよう。

 

 

 

俺が世の善悪を支配し、世の力を管理する。
この世界を統べる調停者となろう。

 

 

(簡潔に且つ大胆不敵に、復讐者個人による世界支配を全世界に宣言した。)

 

 

 

この世は実力主義
人間社会、国単位ではある程度の法が定められ、法によって弱き者は守られているが其の域を脱した瞬間、力による無秩序の支配が待っている。
人間同士では其れが戦争に発展し、敗者は勝者に支配され搾取される。
忌まわしき負の歴史、世界的に見れば、其れは種族間の問題に発展する。
魔族・悪魔・天使etc…と言った上位種族は種の存続の為、下位種族を超越的な力で支配し搾取する事もあるが、生存に苦労の無い上位種族(バケモノ)は私欲で力を振り翳す。
単純な支配欲に駆られ弱きを淘汰する者、気分で国々を滅ぼす出鱈目共。
等しく弱きは理不尽の前に屈しその命を散らす。

こんな不条理極まる世界に正義も悪も無い。
法が意味為さぬなら、正義論も机上の空論。
言うなれば勝者が正義で、敗者は悪なのだ。

俺はこの弱肉強食の世界を、根底から覆す。

 

(長々と自身の意志を語った復讐者は背後の大樹に視点を移す)

 

 


これより一ヶ月後、全世界を対象とした権能を二つ行使する。

  

 


一つ、「神威・回帰の世界樹
是は全生物を対象とした妖術。
発動後、生命エネルギーを生存最低限にまで、魔力やその他の特殊能力全てを吸収し、
身体能力を一般人レベルにまで低下させるデバフを付与する。

 

二つ、「善悪反転魔法 ニルヴァーナ

言葉通り心の善悪を反転する魔法でパイプオルガン型の神器とも称される。
全世界を対象とした反転魔法は俺次第で世界の行く末を決定付ける事が出来る。

…どう使うかは一ヶ月後に公表しよう。


全生物が力を無くし真に平等となった世界で
この俺が善悪を支配し統治する。


あの攻撃は俺からの力持つ者への洗礼だ。

この件含め異議不満、何かと思う事もあるだろう。
俺の調停思想が悪ならば、それもまた良し。
半端な正義で力を振り翳す、矮小共こそ陳腐な悪。
全生命共通の「絶対悪」たるこの俺を、現世界の道理に従い力で己が正義を示してみせろ。

 

 


(堂々と世界に宣戦布告をした復讐者。
大樹から視点が変わり四つの映像が同時に脳内に流れ始める。

各地に降り立つ我が守護天使…感情の四大天使を撃破し漸く俺への挑戦権が与えられる。


ちなみに彼らを無視して俺の元へ来ても無駄だ。
断絶空間の結界。物理敵には勿論、境界内部への次元的・空間的干渉は全て外部へ弾かれる。


天の遣いを下せぬ程度ならば、そんな世界は力を示す事も無く新秩序に屈すればいい。


…どの道結果は変わらないがな。

さて、そろそろお話も終わりにしよう。
それでは


_____________

 

輪廻の復讐者の世界宣告より数日後、
各国は戦力を整え四大天使討伐へと準備を進めた。
中には有名な冒険者、傭兵、自警団等が名乗りを上げ各国共に共同戦線を張り続けた結果、
何十か国もの同盟を結んだ対復讐者の世界連合が一時的に結成された。

 

また、彼を良く思わない種族も参戦。
種族間で群れずとも強大な「個」の戦力として単独で四大天使に殴り込む。

 

…然し四大天使の実力は彼らの想像を絶するものであった。


以前下界にて”遊んでいた”天使は、固く禁じられていた理外の力「恩寵」を全開放。
戦闘規模も気にする事無く上位種族としての力を存分に発揮し、連合軍を制圧。
強大な魔族でさえ瞬殺、致命傷一つ負わせる事叶わず消耗の兆しも見えない戦況。

ある程度の情報を得られた事が唯一の成果であった。

また輪廻の復讐者の新秩序に賛同する一部の勢力が出現。
彼の理想とする世界顕現の為、四大天使攻略を阻害する動きが見られ始めた。
即ち各地での暴動の活発化、各国でのクーデターが相次ぎ発生。
鎮圧の為に人員を割かねばならない状況も相まって、四大天使攻略はおろか輪廻の復讐者撃破は無理なのでは…?と世界の脳裏にその言葉が過った。

 

 

日が経つにつれて世界の混乱は加速。
立ち向かう者、絶望し神と崇め祈る者、終末を察して自ら命を絶つ者等さまざま。
全員共通なのはこんな自体を引き起こした復讐者に畏怖し恐怖し憎悪を向けている事。


徐々に絶望の心が増える度に、別次元で静観している感情の神は嗤っていた。

 

 

 

然し、希望の光は未だ潰えない。
一部の有志は、来る日に備え準備を進めていた…。


四大天使攻略から三週間が経過。
戦況は膠着と進軍を一定タイミングで繰り返し同じ結果を何度も生み出すのみ。
新たな情報すら無くただ種族差の暴力に蹂躙される軍勢。
「頃合いだな」と一人の男が重い腰を挙げた。

 

 

#王凸再来 の首謀者 
赤外套を纏った男 ラークス・ヴァーミリオン

 

数年王都地下牢にて収監されていたが、近頃王都上層部の監視下ではあるがある程度の自由が与えられた。
国家転覆罪として即急に処刑すべき大罪人だが、その魔法知識に価値を見出した上層部は彼を利用する事にした。

此度は、輪廻の復讐者撃破を表向き、王都秘蔵であるニルヴァーナ回収を裏目的として上層部は彼を戦闘支援役員として抜擢、また別に王都内外の有力勢を予め確保し情報が出揃うまで待機を続けていた。

 

世界革命まで残り一週間。


王都近郊の街。とある建物の一室にて、感情の四大天使・輪廻の復讐者攻略を目的とした会議が開かれる。世界の命運を握った王都推薦の強者達。世界を救う英雄となる。

 

今、此処に役者は出揃った。)

 

「さあ、世界を救おうか」


____to be continued

 

 

※実際の会議は参加者限定の大部屋で行われます。
続きは四大天使戦となります。

【一章】絶望

【一章】絶望


神気解放
…我が意志に応えよ。「天叢雲剣

 

(煌めく白光、纏うは神の輝き。
日の国の神話にて伝わる八岐大蛇の御力。山神・水神として一部祀られる神格への昇華。
大蛇時代に一度精神を乗っ取られ半ば強制的に神々の黄昏<ラグナロク>へ参戦。
邪気を克服し、神専用の封印石「封魔石・神」にその力を封じた。以降、人の身でも石を介して神格としての力を得る事が出来る。
題して「神気解放」。肉体強度・身体能力が格段に向上し、妖力と呼ばれる専用の力を行使し神の御業である妖術を発動する。

飛躍的な戦闘能力の強化に加え、彼の専用武器を呼び寄せる。
彼方より飛来しその手に収まる琥珀色の大刀は「天叢雲剣
封印時の副産物、蛇の尾より顕れし神刀。

日の国の神話においては暴風の神に殺された怒りを、この世界に於いては感情の神とその傀儡によって存在を玩ばれた恨みを刀身に宿し神属特攻の特殊性能を有している。


最愛の人を騙り弄んだ目の前の存在。
自ら敵と口にした自称神。刃を振るう理由には申し分ない。瞬き一つ許さぬ刹那を刻み、怒りを込め跳躍しその首筋へと刀を振り下し___)

 

 

『爆ぜよ』

 

(___気付けば、

その身が大木に叩き付けられていた。

何が起きた…?と思考を巡らせ状況把握を急ぐ。
神を断つ刃がその御神体へ触れんとした瞬間、彼女の言の葉の直後に復讐者の目の前に不可視の爆撃が発生した。魔法発動の予兆も、爆発の所作すらも感知出来ない謎の現象。


その正体は感情の神の権能が一つ。
超次元的存在である感情の神による物理法則・自然現象への「命令」。

『戻れ』と命じれば対象の生物の時が巻き戻り
『静粛に』と命じば場の生物の攻撃行動を一切禁止する。
『還れ』と命じば一切の状況を無視し対象の生物を強制転移させる。
『静止せよ』と命じれば対象の生物全ての動きを制限し
『滅せよ』と命じれば対象の物体を分子レベルで破壊し消滅させる。

全てが彼女の思いのままに、その言葉一つで世界の法則が歪む。
其の権能、絶対たる神命の詔。


称して『言覇』(ことは)。


復讐者は木から飛び降り体制を、呼吸を整える。
推測混じえ思考を纏め強く神刀を握り直した。

言葉による空間・人体含めた物質への命令。
空間関与はそこまで脅威では無い。
問題はあの発動速度と自由性。
場面に応じて言葉の数だけ対応出来るならば
真正面からの撃ち合いはどんな超火力であろうと不利。

常人ならほぼ詰んでいるであろう状況。
然し復讐者にはまだ別の選択肢がある。
自身と友の固有魔法の組み合わせ。
初見殺しの即死攻撃、その下準備に取り掛かる。)

 

神威・八蛇崩落

(フッ…と、突如視界が暗転する。
視界の先まで続く影が辺り一面を黒で染める。

神気解放にて得た地を支配する力。
彼が紡むは大地を喰らう岩蛇を招来せし辞。
上空に彼の魔力・妖力を内包した半径100m程の大岩を出現させ指を鳴らす。

表面に亀裂が走り破砕音と共に内側から岩石の大蛇が八頭顔を出す。まるで卵から孵った蛇の子。親である地の神の命に従い産まれながらも獰猛な瞳を真下の初餌へと向け超降下。大地ごと感情の神を喰い尽くさんと牙を向ける。)

 

「ちょっと規模大きくしても無駄だよ?」
『爆ぜよ』  

(彼女は視界を真上の蛇軍に向け一言、破滅の言葉を送る。蛇の頭から尾へ、岩石の卵殻へと流れる様に爆破が繋がる。上空の大爆破で雲が吹き飛び、天地に砂塵が撒き起こる。雨の様に大地に振る岩石片を眺め復讐者は一言。)


【暗躍】【次元断】

(砂塵によって視界が曇る中、復讐者は神の背後へ転移し神刀を振り下ろす。自身の魔力間への転移を可能とする”暗躍”。巨大岩石に魔力を通していた布石はこの一刀の為。友の切札である”次元断”。空間を、次元をも裂き両断する防御不能の一振。超火力に対する反動に耐え得る神気解放の肉体強化と神刀の存在によりリスク無しで放てる最高火力の技。其れを不意打ちで放つのだ、まず常人ならば対応は不可能。文字通りの初見殺しの斬撃を背に振り下ろし__)


「ん〜♪惜しい♪」

(__神の指に摘まれ静止した。
斬撃の威力により周囲の砂埃が散り互いの視界が晴れる。復讐者の驚愕の表情を嘲るような神の笑顔。
余裕綽々で次元断を受け止め指を離す。
その二本指でデコピンの形を造り復讐者の額を弾く。呆然とする復讐者は頭から吹き飛び再び大木に激突。衝突の威力で樹はへし折れ貫通、其れが”3本分”続き5本目の樹で威力は減退。身体が内部に深く埋まる形で動きを止めた。

全身に激痛が走る。
特に頭と背、幸い脳震盪や内臓損傷は無さそうだがかなりのダメージを受けた。
デコピン一つで神格レベルの肉体にここまでダメージを与えれる攻撃力の高さにも驚愕だが、問題はあの斬撃を容易に止められた事である。
振り向く事も無く、まるで来る事が分かっていたかの様に腕を背後へ伸ばし摘んだ。未来予知を疑う復讐者の前に神は転移で顕れ口を開く。)


「   『全知全応』


私の二つ目の権能。
色々細かい事はあるんだけど、少なくとも不意打ちは通じないよ♪」

(之ぞ感情の神最高の権能にして出鱈目の境地。
制限無しに語るならば、対象の四次元空間までの情報を修得し身に迫る危険に自動で対応する権能。情報の内容・効果時間・自動対応の判定内容等、詳細は山程あるが此処では語る価値に値しない為割愛する。

圧倒的な実力の差。…否、実力というより種族差か。
生物としての格の違いを其の身で味わう。
山神・水神と祀られ恐れられた化物の力の一端と、概念を司る正真正銘の最上位神とでは同じ神格で在りながらその力は天と地程掛け離れている。

ここ迄勝機を見いだせない存在を目にするのは人生史上初の事、思考と表情が曇り微かに身体が震える。


_勝てない。
その思考が脳裏に過ぎり復讐者は覚悟する。


…死の覚悟を。

____________________


(それからの復讐者は防戦一方だった。
感情の神は弄ぶ様に破壊を振り撒き続けるのみ。
死に直結する攻撃が無いのか、唯遊ばれているだけなのかは不明だが攻撃は爆破の言覇のみ。
其れでも直撃は致命傷足り得る物で回避を余儀無くされている。
攻撃に転じても無意味。様々なパターンで攻め立てても全知全応で処理される始末。

逃げの選択肢もあるが其れすら見破られ他に被害が出てしまうと考えると却下。そもそも相手の目的が復讐者の命である以上、逃走に成功したとしても自体の延長しかならない。

この時点で大分詰みだが復讐者の瞳から希望は潰えない。それは、戦闘を引き伸ばし少しでも多くの情報を引き出す事。

情報が割れれば攻略の糸口が見える。

可能性を追い求めた先に勝機を見い出せ。

仮に負けて殺されたとしても情報を彼を知る友に託せば同じ負けでも「最悪」は防げる。

目的が復讐者の命であれ、世界の脅威に成り得る存在である事には変わり無い。
最悪存在の共有だけでも彼の知る友に伝える事、それが復讐者の最期の仕事だ。)


…。
……。
「つまんない」

(戦場は遙か上空へ切り替わり互いに浮遊し対面している状況で、神はそう一言呟いた。)

 

…つまんない?

 

「うん。そっち手札出尽くした感じでしょ?
八岐大蛇の力、どんなもんかなーって思ったけど

なんかあまり大した事無かったね。」

 

…それはご期待に添えなくて申し訳ありませんね


(自身の力が貶された事に怒りは無い。
防戦一方を演じて戦闘を長引かせている事に気付かれないかの不安が大きい。見た所全知全応では心の中までは知る事が出来ない様子。

感情の神ならばその辺は得意そうだが…?と内心疑問に思うも不幸中の幸いに安堵して適当に返答する)


「もっと本気だして欲しいんだけどな〜
まぁ自分で出せないなら仕方ないか…

…あ♪こうすればやる気出るんじゃない?」

(退屈そうな表情が狂気的な笑みへと変わる。
何かを思い付いた神は何かの魔法…召喚魔法だろうか、とある人物を出現させた。


それは復讐者がよく知る少女。
猫耳のフードを被った桃髪の夜歩き商人。
一度騙った人物をこの場に呼び寄せ浮遊させる。
突如呼び寄せられたであろう彼女は困惑の表情と共に助けを求める声を発した瞬間、乱雑に神の手により乱雑に口が塞がれる。)


…何のつもりだ。
(恐怖による震えは怒りによる物へと変わり殺意を滾らせ神へ問う。)


「んー?いや誰かを手にかけないと全力出してくれ無そうだなーと思って
あ、まだ手出しは禁止だよ?
『沈黙せよ』…そして『嬉の呪鎖』  」


(此方の動作を完全に見切られている以上、神に言われるまでもなく手出しするつもりは無い。瞋恚の念はあれど頭は冷静に、攻撃に転ずる瞬間を狙い救出しようと思考を巡らせる中、神の御手より赤色の光が輝き少女を包む。見た所直接的な危害は無いようだが何かしらの魔法を使われた様だ。

一言目の言覇は口塞ぐ少女へ。
一切の言葉を封じる神令を少女に下し拘束を解く。
少し離れた位置へと飛ばし空中に留める。)

 

「すぐ殺した方が怒るかなーって思ったけど面白そうだからゲーム形式にしてあげる♪

 

私がこのまま君に勝ったらあの子は殺して王都も滅ぼす。


君が勝ったら…いや、私に少しでもダメージを与えられたら彼女は解放して私も身を引いてあげる。


…これだけだと対等じゃないからお詫びに私の力の一部も貸してあげるよ♪

ちなみにあの子を助けようとした瞬間に爆破する魔法を施してるからズルは無しね。
 
どう?これで頑張れるでしょ?」

(粘った甲斐が有ったのか、絶望の壁を前に希望の光が現れた。代償と褒美の天秤を前に復讐者は刀を握る手を強める。今まで逃げに徹していた思考回路を書き換え、神に一矢報いる策を早急に練り始める。

神の気紛れでも何でも良い。
神の力の一部もこの際はどうでも良い。
この場から事無く終える道があるならば、
想い人を、王都を守れる可能性があるならば、
今ここで限界を超え、神へ反逆の一撃を。

現段階で咄嗟に思い付いた策は一つ。
全てを知り、全てに対応する出鱈目相手に唯一通じる一撃。其の答えはこれ迄も復讐者が追い詰められた時に使う戦法。とは言え今回の場合は賭けでもあるが…。)

 

…【次元断】

(もう何度も見せた次元を断つ斬撃。
超高速で飛翔し斬りかかる。
何の変哲もない唯の突進に神は『爆ぜろ』と空間を歪ませ爆破する。復讐者の目の前の空間が爆ぜ衝撃で身体が吹き飛ぶ。距離を詰める事すら困難な言覇、直撃すら致命傷の神令を…、彼は”誘発”した。

神が言覇により口を開いた瞬間には復讐者は神刀に魔力を込め投擲していた。細かい原理は不明だが、発動が対象性ならば”言葉を発した瞬間に別行動を起こせば良い”。
目の前の空間を、若しくは復讐者を対象にした瞬間に刀を投擲すれば、言覇による神令を終えた後は刀のみ影響を受けず直進を続ける事となる。
これが『爆ぜろ』以外なら結果は違っていたかもしれない。これが賭けの一つ。

そしてもう一つ。
天叢雲剣による斬撃は神族特攻。
故に神からすれば直撃は避けたい筈。
仮に回避するとしても暗躍により急接近が可能な復讐者からすれば回避後を狙われるリスクが高まる。
つまり最適解は神刀を摘み斬撃による攻撃の可能性を消す事。
答え通りに投擲を止め、神は第二の権能を行使する。

『全知全応』による状況把握
『全知』によって得た情報は「暗躍で神刀に転移して来る”のみ”。影響は三次元まで」
『全応』による対応は『言覇』により再び爆撃を撒き起こす。
全応に従うかは本人が選択出来るが特に却下する理由も無い。転移した瞬間を狙い、余裕綽々に口を開いた。)


『爆ぜr_ッッ!?』

(言葉を発し終える直前、その身に伝わる衝撃。
其れは復讐者による体当たり。
全知は絶対、確実な復讐者の未来を視た神は結果の相違に困惑の表情を浮かべる。体当たりにしろ攻撃するならばそれは全知に反映される。其れが漏れる事等_。)


「_…なるほどね?
”攻撃したつもりではなかった”って事♪」

 

正解。
神様も馬鹿なのかな?
理科の勉強はしておいた方がいいよ?

(『全知』は対象の次の行動パターンと次元軸を瞬時に発動者へ伝える権能。
”対象者の運動エネルギー”なんて事細かくは教えてくれない。ましてや暗躍による転移は運動エネルギーも継承されるなんて情報は範疇の外。
復讐者にとっては転移するだけの「行動」だが
爆破衝撃による吹き飛ばしは継続され転移後に全知外の体当たりへとなったのだ。

胸倉を掴み神刀を引き剥がし己の左手に回収した復讐者は煽る様に、神へと説教を釈く。)


俺の体当たりが効いて無くとも
直撃した以上、それがどんなに極小でもダメージには変わり無い。


…俺の勝ちだよ。文句ある?


「んーん?文句無いよ♪
全知全応を破られたのは”久々だった”しいいお勉強になった♪   私の負け、約束は守るよ♪ 」


(困惑こそしたものの悔しがる素振りも見せず復讐者の煽りにも怒れる様子すら無くただ敗北を認める神。恐れ多くもその胸倉を掴む復讐者。

 

これが勝ち?何を言ってんだ?

世界の脅威に成り得る存在を前に留めの好機があるんだ。

此処で終わらせて”完全勝利”しかねぇだろうが)

 

 

そうか、じゃあ死ね。【次元断】

(至近距離での次元を断つ斬撃。
半拘束状態である以上、幾ら全知全応を以てしても肝心の対応は難しい。
回避は不可、導かれた全応に従い神は遍く全てを鎮める言覇を唱える)

 

『全知全応』『静止せよ』
(対象は復讐者。全知により得た情報は「神刀による次元断の袈裟斬り」
全応による対処は「言覇による”直接的な”復讐者の攻撃動作の停止」
爆破による吹き飛ばしが回答された場合、全応を無視して斬撃を受ける判断をするつもりだったが
異論は無い。復讐者の運動エネルギーをも完全停止し、先の失態を修正し完全に攻撃を無力化する。

その言葉の直後、復讐者の攻撃行動含め全ての動作を禁じ、神刀はその肩に届く前に停止する。
魔法含めた攻撃行動全てを禁ずる鎮圧の法。
呼吸、思考、発声は可能、生存に必要最低限の行動は許可されているようだ。

 

…それさえも復讐者は読んでいた。
正確には『爆ぜろ』以外の言覇か、斬撃を再び指で止めるかの二択だと踏んでいた。
全応による回答が直前の失敗を反映するのならば、爆破による対処は選択から外れると予想。
回避も不可となれば直接的に自身・若しくは神刀を止める言覇を行使するだろう。
また指で摘まれても予想の範疇なら問題は無い。
出来るだけ全応の種類を誘導する。其れが復讐者の狙い。
そしてもう一つの賭け。それは直接的に自身・神刀を止められた場合、他に何が出来るのか。
何処までが行動の範疇なのかを即座に確認する事。
身体の時間が停止されるレベルで何も出来ないならば本当に詰みの可能性はあったが
この程度ならば次の手は撃てる。
全応に対する此方の対応だ。必然的に次の一手も全知の範囲外となる。

まだ超越者の時由来の停止の方が驚異だぞ雑魚が!…と内心吠え復讐者は大地に命令する)


「神威・天地破砕」

(夢の世界線で八岐大蛇の力を宿した大蛇は氷獄の魔王と大規模な戦闘を行った。
その際に大蛇はこの星に対する神令を行使した。
「寄越せ」と命じ星の核力を汲み上げ攻撃し
「死ね」と命じて恒星の終わりを再現し超新星爆発を巻き込こした。

必然的に大規模な攻撃手段となる為、地形を気にして戦う復讐者には最終手段として封印していた力であった。然し、今この瞬間だけ禁断の力を解放し神へ致命の一撃を下さんと命を下す。

 

神威とは”神”たる者の”威”
八岐大蛇の名を以って星へと下す絶対服従の勅命。
行動としては言葉で命じただけ。
復讐者の直接的な攻撃行動とは判断されず静止の縛りを抜け超常現象を引き起こす。

其れは復讐者を中心とした半径10m以内の重力操作。
範囲内の重力を10倍にしろとこの星に命じた。

直後、二人を襲う超重力。
真下の大地に亀裂が走り、崩壊の兆しが見える程の圧力。
一般人ならば当然その身は潰れ、血液が循環せず生命活動が困難となる。
肉体強化を施した復讐者、人の身を超越した感情の神でさえ即死はせずとも視界が暈け空中での自由を奪う。其れは二人のみに非ず、復讐者の握る天叢雲剣にも十倍の重力が加わる。
肩に添えられていた神刀は重力に従い地へ落ちる。
神族特攻の刃は容易にその身を裂き、肉を抉り、縦一閃に両断した。

 

これが復讐者の真の狙い。
全知全応を超え神殺しを成す賭けの一手。
すぐさま神威を解き、歪む視界で地へ墜ちる半身を眺める)

 

…力を過信しすぎたな。
あの子に手を出そうとしたんだ。

未遂でも許さない。


…そのまま死に晒せ


「…いやあ、予想以上だよ。

 

…でも、社会の勉強はもっとしておいた方がいいよ?」

 

(身体が両断されども吞気に賛辞と謎の警告を復讐者へ送る。
最期にしては意味不明の言葉を吐くと不審そうに地へ堕ち行く神を見つめる視線の端。
暫く放置されていた少女が目に映る。

 

 

 

神と同じく、

その身を両断され絶命した少女の姿が。)

 

 

 


…は?

(上手く言葉が出ない。
脳内が謎に包まれ動く事すらままならない。
怒りよりも、悲しみよりも先に何故少女が死んだのかという疑問が思考を、身体を支配する。

…いや、これは何かの間違いだ、と疑問から目を背けたくなる衝動。俺が間違っているのだと、真なる解答を求め状況把握に思考を巡らせる。

…だが、いくら答えを見つけようとしても現実は残酷に復讐者に一つの真実を突き付けるのみ。)

 

「”死の紅翼”
世間一般で噂されていた町単位での殺戮事件なんだけど知ってるかな?
天星剣王さんの働きで事態は収束したんだけど原因も何も知らなそうだから教えてあげる。


「嬉の呪楔」
その殺戮事件の原因となった魔法にしてとある天使の恩寵。
発動者に触れた者全ての外傷等が全て共有される。
 
…まあつまり私を斬ったからあの子も斬られたって訳♪」

 


…。
……あれは噓だったって事かよ
(少女へ施した魔法の内容、一種の地雷型魔法だと思っていた。然し神にリンクして少女にもダメージが共有されるなら…)

 

 

…どっちにしろ致命傷与えてたらあの子は死んだだろ。

 

 

「正解♪
…でも君も悪いんだよ?

あのまま私を殺そうとしなければゲームに勝ってあの子は解放された。


…神を殺そうとした代償があの子の命って訳♪

はっきり言ってあげる。

 


君があの子を殺したんだよ。」

 

 

 

(気付けば神と彼女の半身は宙に浮いている。
神に関しては何事も無かったかのように悠々と話している。

然しそんな事は今の復讐者にはどうでもよくて。
正確には神の魔法で少女の命が散ったのだが、間接的に自らの手で愛する者の命を奪ってしまった事実に、彼は呆然と空に立ち尽くす。

守ると決めた愛する人を、他でも無い自らの手で斬った。


何で彼女は死んだ?
其れは、俺が弱いから。


弱さ故に人質にされ、弱さ故に神の罠に気付かず少女を殺めた。

 

ああ、まただ。
これで二回目だ。


俺に力が無いから…あの子に危害が加わる。
俺のせいで…俺の…  )

 

「もう”これ”要らないか♪

 

…バイバイ♪」


(目の前が真っ暗になり、自責の念に苛まれる復讐者。感情の神は無慈悲にも、彼の目の前で少女の亡骸を冒涜する。

少女に付与している浮遊能力を解き、重力に従い地に叩き付けた。
上空から落とされた亡骸が肉潰れ黒血噴き出す鈍い音が地上で静かに響いた、
復讐者の耳にはそれが何よりも大きな音として、脳髄に響いた。

 


ぐしゃり…

 


心が潰れ醜い感情が沸き上がり噴き出す。
希望が潰え黒く染まる心、絶望が支配したその内は…斯くも___

 

 

 

___ガチャ…と。

 

 

 


今、この瞬間

均衡を保っていた輪廻の歯車が、歪み回り出した。)

 

 

 

 

ア”ア”ア”ア”ぁッッッ!!!!

(この世に転生した意義を、生きる意味を失い感情が爆発する。

 

力持たざる自分へ、全ての元凶である目の前の存在に憤怒し、憎悪を剝き出し天貫く怒号を轟かせる。


全世へ悲痛な叫びを響かせ、破壊者が降臨した。

全身の肌が捲れ鱗の様な模様が浮き始め瞳が赤く染まる。
身体はまるで蛇の如く変容し、周囲の空間が歪む程の質量を有した魔力が全身から溢れ出る。)

 

「その絶望に歪む顔が見たかったんだよ♪」

(復讐者の変化に、元凶の神は特に驚く様子を見せない。寧ろ待ち望んでいたかの様な反応、嬉々とした表情で復讐者に言葉を贈る。


其れに対し復讐者は、冷徹な視線を向け一言。

其れは世界を両断する終焉の刃。

 


破壊齎す絶望の一閃。称して___ )

 

 


次元断<不俱戴天>

 

(天叢雲剣がその手に還り、縦一閃に振り抜いた斬撃は目の前の景色を破滅に誘う。
この瞬間、世界地図に一条の線が追記される。斬撃の軌跡延長線上に鋭利性を有した衝撃波が発生。
其れは天と地を結ぶ斬撃幅10mの刃と成って大地を抉り、空雲を割り、空間を斬り飛ばしながら地平線の彼方まで森羅万象遍く全てを両断した。
その名の通り、この世では仇・復讐相手とは生きていけない究極の怨恨を斬撃の形にした神業。
空間含めその斬撃、衝撃波に触れた者全てを分子レベルで斬り刻む死。
斬撃に巻き込まれた感情の神は権能を発動する事も無く斬り飛ばされた。

心に渦巻く破壊衝動は、神殺しを成して収まった。
空が鎮まり地は黙り、一直線状に無と化した景色が広がる。
憤怒の後の静寂は、彼にとっては余りにも空虚なもの。
究極の破壊衝動に目覚めかけた心も、嘗て世界を、大切な人を守ろうと誓った心も何も無い
中途半端な心。 


今の俺は何なのか…

 

虚ろな瞳が空を見上げ、ぽつり、呟いた。)

 

 

 

「Fatalism of  rebellion  ~反逆の宿命論~

 

これが君の本当の名前。


私が作った人と魔の輪廻転生体。

私が絶望の感情を知る為の実験体だよ。
…今の君は輪廻転生の中間、神気解放含めて人と魔と神のハイブリッドって所だね。」


(何処からと声が聞こえる。
全ての元凶、忌まわしき神の御声。
今までの出来事がまるで夢物語かの様に、完全復活を果たして復讐者の背後に顕れあっさりと彼の真名と本当の目的を告げた。)


…。

……それで?お前は何で生きてるんだ。


…粗方俺が絶望している所を観察して感情を理解したいとかいう魂胆だろ。あれで満足できたのか?

 

「…意外と驚かないんだね?」

 

 

 

…どうでもいい。
転生前の記憶がある時点で俺が普通じゃないのは分かってたし。


今の俺は半端者。それで十分だ。

 


…答えろよ。

 

 

「…はいはい、話すよ。

私は感情の神 エミリア


感情を司る神にして、感情を理解したいと願う神。
概念を司る神は死とかそういう物は存在しないんだ。

 

代わりに神の願い・宿願を宿した本体、私は「神髄」って呼んでるけど
それを破壊すれば事実上の「死」になるね。
私…神髄は五次元空間に唯一存在する概念。

簡単に言えば無限に広がる世界線軸の何処かに本体があるって事。
今こうしてこの姿で居るのは神髄の虚像。
容姿年齢は自由に変化出来るけど感情の起伏が多い思春期の女の子を選んでるの。

 

要するにこの世界線の私を何回殺しても意味ないって事。」

 


(逆に言えば何処かの世界線軸にある神随さえ破壊すればいいだけである。故に次元移動を容易とする存在には注視していた訳だ。
また、基本的に感情の神含め上位神は下界の存在には過度に接触しないようにしている。
話程度は良かれど言覇による制限もグレーゾーン。攻撃に関しては当然アウト。
規則として定められている訳では無いが、過度な干渉が多いと他の上位存在に目を付けられ面倒事になる可能性がある。

 

然し、自らが生み出した実験体は別。
自分の製作物に攻撃する事は誰にも咎められない。
自分が生み出した天使が下界に干渉する事も、直接感情の神が手を下している訳では無いのである程度は許されている。但し神より賜りし恩寵の力の行使はかなりグレーゾーン故禁止令を出している。)

 

…全部遊びだったって事か。

 

 

「そう♪

今回のも満足か言われれば、答えはNOだね。
見るだけなら何千年もこの世界見て来たし、君よりも惨い人生送ってる人は何万人もいるよ。

 

私は嬉しいとか楽しいとかプラス面の感情は理解できるんだ。行動に移して体験して会得出来る感情だったんだけど、マイナス面、負の感情はどうしても理解出来ないんだ。

 

自分で言うのもアレだけど私高位神だし完璧な存在故に恨み辛みも何も感じない。悔しいとかも感じない。
ましてや私より強い存在なんてほぼ居ないし絶望する要素もさせてくれる存在も居ない。

孤独感から寂しいとかは感じるけど負の深淵、
今まさに君が抱えているであろう感情は私には分からないんだ。」


…じゃあ、別に俺を造る必要は無かったんじゃないのか?

(見て理解出来ないなら復讐者を実験台としても意味が無い。間接的にとはいえ想い人を利用し命を奪う結果にはならなかったはずだと主張する。)

 

 

「普通の人間なら、ね。

 

絶望を生み出し希望を喰らう大蛇、
希望を生み出し絶望を塗り潰す人間。

 

絶望と希望の側面をそれぞれ経験して負の感情の重みを知ってから絶望させる。


世界滅ぼしても友達殺しても師匠殺しても、
恐くそこ迄絶望はしないと思うんだ。
怒りこそあれどそれじゃあ浅い。

 

君が初めて「守りたい」と思った人間。
その子を標的に、世界を守ると豪語した本人の手で殺して君の心をぶっ壊して初めて絶望すると思ったの。

 

絶望は淀み歪み一生心に残り、
その復讐の矛先が私に!


深淵より漆黒に染まった感情を向けられた私が”それを喰らう”事で初めて絶望を理解出来る!!

 

これが私のシナリオ。復讐者の名の真の意味!

 

Fatalism of  rebellion  ~反逆の宿命論~
For君の生誕は復讐を運命付けられた悲しき傀儡。

 

 

そんな絶望した君と文字通り一緒になる事が私の願いであり長年の計画の集大成なの!!!

 

…どう?これで満足かな??」

 

(…あぁ、成程。理解出来た。
確かにそれなら不思議だった俺の存在にも納得がいく。このようにして俺の様な実験台達が、間接的に酷い干渉を受けた人間が数多くいるのだろう。
数々の憎しみを背負っても尚下らない宿命を口にする神に…

 

復讐者は一蹴した。)

 


…足りねぇな

 

 

「足りない??と言うと?」

 


人間の感情を理解したいんだろ?
それも絶望した人間の。


”俺一人の心を喰った所でそれは1パターンの心情しか取り込めない欠陥計画”だ。

 

やるなら全人類心から絶望させて様々な人種の絶望を喰らうべきだろ?
でもそれをしない、いやそれが出来ないからこうやって回りくどく不完全なやり方になってるんだ。違うか?


「そうだね?私が世界干渉なんてしたら何処ぞのお偉い存在様が黙って無いよ。そりゃあ本当は全世界を_」

 

 


じゃあ、俺が全世界を絶望に叩き落としてやるよ

 

 


(…。
……。
はい?と。 

 


誰もが「どうしてそうなる」とツッコミを入れたくなる復讐者の発言に、流石の神も言葉を失う。
その言葉の意図を復讐者は語り始めた。」


此処はお前以外にも理不尽な存在が数多くいる多種族混同の世界。お前みたいな何でもありの出鱈目が利己的な私欲の為に力振り翳してる奴も多いんだわ。

度々続く王都襲撃もそう。
力無き者は力持つ者に怯え、見つかれば搾取される世界。人間社会の法など通用しない力が優先される世界。

 

…極論かもしれないが俺が”人間だった”時に師匠の稽古から離れてこの世界を歩き渡って出した結論だ。

 

都外まで轟く力があれば王都を襲撃する者も無くなりあの子が離れる必要は無かった。
人質にされず己のみで困難を乗り越え

れる力があればあの子は死なずに済んだ。

俺の力が無いからこそ招いた結果がこれだ。
好きな人一人守れない男が、世界を守る?
笑わせるな。


世界は守るに非ず、破壊を以て等しく絶望と希望を管理する唯一の存在が必要だ。 

 

…中途半端な俺は今、此処で変わる。

そう、俺は…

 

 

 

   
力によって支配する世界を、根底から覆す。

中途半端は正義は掲げない。


全人類、全生物を等しく絶望に叩き落として
この世の力を俺が支配・管理する。

 

 


この世界の絶対悪、「調停者」として君臨する。

  

 

 


…絶望した者は様々歪んだ感情を俺に向けるだろう。
無限に等しい負の感情を喰らい初めて理解出来るんじゃないか?「絶望」をな 

 

(まぁ素直に喰われてやる道理もないがと内心。
護るべき者を失った青年は、世界の基盤から正す事を宣言した。その宣言が完全に真なる物で無い事は神にも理解るだろう。美味い話の乗った釣り針に、神は食い付いた。)

 

「…へぇ、面白そうじゃん♪それ
君が世界干渉するなら多分大丈夫だろうし…乗った。

ゲームの約束もあるし少し手伝ってあげるよ。」

 

(虚像とはいえ一撃で高位神を単独撃破する程の実力。種族を超越した復讐者は世界を調停する器となった。

 

 

後に彼は自らの存在に因み【輪廻の復讐者】と名乗る。


互いの真意は心の内に、彼の復讐心は奥深くまで、
絶望を背負い全世界の絶対悪と成り世を正す復讐者最期の物語。  

 

 

題して、【嘘と復讐の魔王譚】)

 


________


神の力として感情の四大天使の監督権と恩寵の使用許可権を継いだ復讐者。


王都秘蔵の神器を回収し世界に手をかける準備は整った。

 

 

今こそ、世界に絶対たる力の証明を
星に命を下し理想の一歩を踏み出した。

 

 

各国に大岩を落とす妖術
「神威・世界崩落」…と。


_____To Be Continued

 

 

【プロローグ】感情の神

復讐者 その名をふぉる
今はごく普通の人間として生きているが、その正体は嘗ては街を吞み込み、一時世界を混沌の渦へ巻き込んだ破壊の化身 

大蛇メイルストロームサーペントの転生体。

転生の前後数週間の記憶のみ無いが、転生前の記憶は引継いでいる。
前世が破壊を齎した張本人だと言う罪悪感と贖罪の意から転生後は世界を、大切な人を守る事に力を使っている。基本は彼が転生者という事は隠している(詳しく話す気が無い)が何名かは彼の正体を知っている。(見破られている)


これは、哀しき運命を定められた復讐者の最後の物語。


_______________________

「お久しぶりっス。ふぉる君」

(世は如月。冬の寒さはまだ続くも春の芽吹きが薄ら感じられるそんなある日の昼下がり。
依頼帰り、王都へ向かう林道にて、懐かしい声が聞こえ復讐者は振り返る。
人として転生しこの世に生まれ初めて愛を与えてくれた少女。
桃髪に猫のフードを被った夜歩き商人、名を「ソーン・ホーネット」
度続く王都への襲撃に彼女は商いを故郷へと移した。国どころか少女一人を守れずこのような決断をせざるを得ない自らの非力さに自責の念を抱き、お互いの為に離れる事を決断した。
今でも彼の想いは変わらない。世界を守る為、大切な人を守る為に、この5年間「強さ」を求め血の滲むような努力を重ねてきた。噂を聞き再び会いに来てくれたのか、将又単なる偶然か。
期待と喜悦の混じった表情で振り返る。

 

__そこには見知らぬ容姿の女性が立っていた。


彼女と同じ桃髪ではあるが、腰まで届く挑発。彼女よりも十何cmも高い背丈に記憶に無い服装。
某国にて学校というものに通う為の服装、確か制服というものだったか。
”声まで彼女に似せて”声を掛けた目の前の存在に敵意と警戒心を剝き出しにする。)

 

”初めまして”。声真似って趣味が悪いね。…何の用?

 

(その問いに彼女は笑って答えた。)

 

「…あっはは!いやごめんごめん!そんな怒んないで??少し揶揄っただけじゃん! そんなんじゃ”また”女の子に逃げられちゃうゾ☆」

 

(謝罪混じりの返答も逆効果、彼女への不信感はより高まり睨む眼が一層鋭くなる。
返答をはぐらかされ小馬鹿にされた事もそうだが、自分の名前は兎も角、商人の少女の事とその関係性を知っている事に対しての不信感だ、
自分で言いふらしている訳でも無い、知っているのは自分だけの筈。何かの魔法ならそれで済む話だが、当時から探られていたとなれば話は別。重ねる様に問いを投げかけようと思った矢先、彼女が先に口を開いた)

 

「何の用?だっけ。

…王都を滅ぼしに来た。って言ったら?」


あ?今ここで始末するけど

(復讐者への異常なストーカーの類ならまだ良かった。王都侵略の言葉が出た以上は疑念が確信に変わる。こいつは敵だ、と。
敵意は突き刺さすような殺気へと変化し、左手を刀の柄に添え何時でも抜刀出来る様に構える。
だが此方から動き出しはしない。自分も気付かない程の情報収集能力、情報量的にこちらが不利。
故に殺意は露わでも問答は継続する。心は熱くも頭は冷静に、相手の一挙一動を捉え然るべき対応を取る。)

 

「わーお、怖~い。
王都滅ぼすってのは流石に噓うそ☆。

…でも君にとって敵なのは変わらないよ
 
もう勿体ぶるのはいいか~。

私は感情の神 エミリア 


目的は秘密だけど。

…取り敢えず君には消えてもらおうかな☆」
 
(彼の神は実に愉快適悦な様。
悠々と、大胆不敵にその正体を明かした。)

 

___to be continued